【ポイント】
顕微スケールの化学成分分析により、有効成分の分布を視覚的に評価
【研究背景と内容】
ヒトの皮膚に塗布した有効成分は、角質層を浸透し、皮膚の目的の部位に届き、その 効果を発揮します。その時、その有効成分の浸透経路や浸透速度を評価することは、そ の効果(性能)を最大に引き出すのに重要です。
しかし、皮膚への浸透評価は、一般的には、実験動物や摘出皮膚を用いて、放射性同 位体や蛍光で標識する方法で安全面や倫理面に問題があり、ヒトの生体皮膚には適用 できませんでした。
そこで、日本メナード化粧品株式会社(名古屋市中区丸の内 3-18-15、社長:野々川 純一)と名古屋大学大学院生命農学研究科(教授:福島和彦)は、テープストリッピン グ法と(
注1)
TOF-SIMS(飛行時間型 2 次イオン質量分析法)を組み合わせた方法 にて、ヒトの生体皮膚を用いて、有効成分(ビタミンE、ビタミンC)の浸透を可視化して評 価することに成功しました。
ヒトの生体皮膚に浸透した有効成分を可視化
名古屋大学大学院生命農学研究科(研究科長:川北 一人)の福島 和彦(ふくし ま かずひこ)教授らの研究グループは、日本メナード化粧品株式会社との共同研 究において、ヒトの生体皮膚に浸透した有効成分の可視化に成功しました。
ヒトの皮膚に塗布された有効成分については、これまで不明瞭でしたが、本研究 において、有効成分の浸透経路を顕微スケールで可視化することができ、その浸透 速度も評価できる手法が確立できました。有効成分がその効果を発揮するメカニ ズムの詳細を明らかにすることで、さらなる性能向上へと繋がることが期待され ます。
この研究成果は、平成26 年の日本香粧品学会誌38 巻4号の 237–243ページに 掲載されており、日本香粧品学会からは、特に化粧品の発展に貢献する優れた研究 および技術に関する論文に贈られる「優秀論文賞」を受賞致しました。
<テープストリッピング法とTOF-SIMSのマッピング解析法>
本研究では、皮膚性状の評価に用いるテープストリッピング法とTOF-SIMSの マッピング解析を組み合わせた新しい可視化の方法を開発しました。テープストリッ ピング法は、皮膚にテープを張り付け、そのテープをはがすことで、テープストリッピ ング1回につき、角質細胞を表皮上層より、一層剥離することができます。その後、固 体表面の物質の分布を可視化するTOF-SIMSにて、得られたテープに付着した角 質細胞と浸透した有効成分の特異的なイオンを指標として測定し、マッピングするこ とで可視化を行います。
被験者の皮膚に有効成分(ビタミンE:dl-者のトコフェルリン酸ナトリウム)を塗布し、一定時間後 に、皮膚上層から連続してテープストリッピングを行い、テープに付着した角質細胞と 浸透した有効成分の指標イオンをTOF-SIMSにて測定し、マッピングを行い可視 化しました(図 1)。その結果、皮膚に塗布した有効成分は、得られたテープに均一に 分布しておらず、テープと角質細胞の境界線や、塊として剥離された角質細胞の辺縁部 に多く局在していました。また、連続して得られたテープから、この有効成分が、角質 細胞と角質細胞の間を通過して浸透することも特定しました。
【成果の意義】
このマッピング解析は、特異的なイオンがあればどのような成分でも測定でき、性質 や分子量などの違いにより浸透性の異なる成分が、生体皮膚をどのような経路で浸透 していくかを評価できます。今後は、美白成分や育毛成分などの有効成分の効果(性能) を高める評価に応用予定です。
【用語説明】
(注1) TOF-SIMS (Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry) 固体表面に低エネルギーの一次イオン(イオンビーム)を照射することによって、放出 された二次イオンを、質量分析器を用いて測定し、得られたスペクトルより試料表面の 構造解析を行う方法です。この方法は、固体表面の分子や原子の分布を観察し、分布状 況を可視化することができ、飛行時間型であることから、多種多様なイオンを同時に分 析することが可能な高感度表面分析法です。また、放射性同位体や蛍光で標識を付加す ることなく、使用する物質に制限はありません。
TOF-SIMSのマッピング画像 (図1) 有効成分の浸透イメージ 電子顕微鏡の画像
青:角質細胞 緑:有効成分 赤:テープ
【論文名】
TOF-SIMS による皮膚浸透経路の分析
Analysis of Transcutaneous Penetration Pathway Using TOF-SIMS
山羽宏行1,村上祐子1,田中浩1,八代洋一1,榎本愛子2,青木弾2,松下泰幸2,中 田悟1,福島和彦2
1 日本メナード化粧品株式会社総合研究所
2 名古屋大学大学院生命農学研究科
日本香粧品学会誌 Vol. 38, No. 4, pp. 237ous P(2014)